シューシャイナーの中山 和彦さんにお誘いいただき、青山の靴磨き専門店「Brift H」で靴談義をしてきました。
Brift Hに足を踏みいれたのはこれが2度目です。
初めて訪れたのは、2015年の初夏に開催された「Brift H On The Table with Ron Zacapa」という靴磨きイベント。初めて中山さんにお会いしたのもこの時でした。まさか再びご一緒するなんてご縁とはわからないものですね。
グアテマラの高級ラム酒「Ron Zacapa」を味わいながら、代表の長谷川 裕也さんに靴磨きをレクチャーしていただくというなんとも贅沢な時間。
当時、まだ女子大生だったわたくし……
ブログでは、こんなことを書いていました。
「靴を愛で、Guatemalaに酔わされて ーBrift H On The Table with Ron Zacapaー」
グアテマラのRon Zacapaの熟成ラム酒を嗜みながらの靴磨き。
Tangoが流れる店内で、目の前の靴に没頭する大人の男と女。私もラム酒そっちのけで、靴磨きの世界に誘われ… 気づけばあっという間に、時計の針は3周目を廻っていました。私が持参したのは、CARMINAのバーガンディーのボックスカーフ。
Brift H代表の長谷川 裕也さんに鏡面仕上げとアンティーク仕上げを教えていただきました。流石、プロの手際の良さには目を見張ります。
まず、アンティーク仕上げは、色を乗せ易やすくするため濃厚で粘性があるSaphirの黒を。トゥと踵に綺麗で自然なグラデーションが出るように黒の乗せ方にも工夫を凝らし、何度も色を重ねていきます。黒を入れたことで色気と重厚感が出ました。やはり色目が変わるだけで表情も一変しますね。
鏡面磨きは、ワックスと水だけで鏡のように靴を光らせるお馴染みの技法。何度もワックスを塗り込み、膜を重ねていきます。難しいのは、つける水の量。水滴一粒、二粒ほどが適量です。多過ぎるとシミになってしまいます。私も一度シミを作ってしまい、長谷川さんに助けていただきました…ヒヤッとした瞬間でした。そして、優しく円を描くようにワックスを塗り込む。この"優しく"がポイントだそう。革も生きているので、愛情を注いであげないといけないのです。
驚いたのは、クリームを直接指で塗り込むBrift H流の手法。体温でクリームが温められ、革に浸透しやすくなるのだとか。確かに、断然こちらの方が革が柔らかくなり、染み込みも良い。
最後は、かのBerlutiのようにラム酒を垂らしてフィニッシュ。
靴磨きに熱い一夜となりました。
なんとおませな女子大生だったことか……(笑)
Brift Hはカウンターでお酒をいただきながらプロフェッショナルの靴磨きを眺めることができる、まるでオーセンティックな老舗のBARにいるようなラグジュアリーな靴磨き専門店です。
今回、初めてプロの磨きを初めから終わりまで生で見ることができました。磨いてくださったのは、Brift H のベテラン職人 北見 建浩さん。
クリーナーでクリームや汚れをすべて落としてからのポリッシングでしたが、あれよあれよという間に靴が光を帯びていく高い技術。そして流れるようにうつくしいパフォーマンスには圧巻です。
百聞は一見にしかず。
ということで、北見さんご本人にもご了承をいただいたので靴磨きの一部を動画で公開しております。
特に日頃から靴磨きを極めていらっしゃる皆さまには、手首のスナップや腕の位置、ポリッシングのスピード、順番などとても参考になるかと思います。
個人的にとても参考になったのは左手の使い方です。北見さんはクロスを巻いた右手を移動させるのではなく、右手に合わせて左手で靴を回しているのです。確かにその方がムダがなく、効率的ですね。
お時間のあるときに、どうぞご覧になってみてくださいね。
(YouTubeのチャンネル登録をお忘れなく!)
「シューシャイナーは職人でありながら、パフォーマーでもある」
今となっては「シューシャイナーはカッコイイ職業」というイメージが定着していますが、ひと昔前まで靴磨き屋のイメージや地位は決して高いものではありませんでした。貧しい子どもや老人が今日その日を暮らすために高級スーツで身を固めたビジネスマンの靴を磨く。昔の映画でそのようなシーンを観たことがある方もいらっしゃることでしょう。
正直なところ、現代の日本であっても速くキレイに磨ける職人でさえ1足あたりの売上相場は1足につき1000~1500円というのが現実です。想像以上に厳しい世界です。そのように”身なりが小汚く路上で日銭を稼ぐ”「靴磨き屋」を「スーツを着てカウンターでお酒を提供しながら靴磨きを見てもらうパフォーマー」に変えたのは、Brift Hといっても過言ではありません。
青山の一等地にお店を構えるBrift Hですが、その価格はメンズの当日料金で1足4,000円 (2017年2月現在)。いわずとしれた、日本で”最も高い”靴磨き店です。しかし靴磨きの注文は後を絶えません。Brift Hの顧客はその技術はさることながら彼らの世界観に魅力を感じてリピートしているのです。「Brift H」というラグジュアリーなブランド価値がものの見事に顧客層にマッチしています。
驚くことに、Brift H代表 長谷川さんのキャリアの第一歩は路上での靴磨きだったそうです。当時の長谷川さんは若干20歳。とあるマーケティングのWebメディアのインタビューで「路上時代は一律500円だった」と答えていらしたのを読んで衝撃を受けたことを覚えています(インタビューは、こちらから)。
早い年齢から路上という現場に出て腕を磨いてきた長谷川さんだからこそ、このように靴磨き業界のイノベーションが起こせたのではないかと思います。私も負けてはいられません……
シューシャイナーの一つ一つの美しい”所作”には魂が込められているように思います。そして、何より夢がある。今では、彼らに憧れるたくさんの若者が”ポスト・ブリフトアッシュ”を目指して、来る日も来る日も靴を磨きこなしています。
後継者不足や採算が取れず廃業が絶えない手仕事の世界でも、手仕事に憧れて業界に入ってくる若い世代は意外にも多くいるのです。しかし、才能の見極めもありますが、ほとんどの若手は最終的に生活していけなくて辞めていってしまう。この数年間でそのような話をあちこちで聞いてきました。どこもかしこも先行きが見えず、息苦しく閉塞的な雰囲気がただよっています。
そのような状況だからこそ、Brift Hの存在は、明るい希望の光のように感じますね。
靴だけでなく、人の心も輝かせてくれる。
シューシャイナーという職業がこれからますます多くの人々に選ばれて、発展していくことを願ってやみません。