仕立て屋見習いのフィッティング Vol.1「ダキ取り」

 

お待たせいたしました!

 『Sartoressa ~仕立て屋見習いのクアデルノ~』第1弾は「ダキ取り」について。

 

こちらでは、基本的に服の"作り手"ではなく服飾がご専門ではない方向けに解説していきます。

たとえば、「仕立て服を注文したいがフィッターにうまく希望を伝えられるか心配」「職人のフィッティングの知識を身につけて自分の体型を理解したい、次の服の注文に活かしたい」という着手の皆さま、もしくはフィッター初心者の方向けの内容です。その点については、どうぞご了承くださいね。

 

さて、ダキ(抱き)とは「アームホールの袖付けの下部分」のことです。

このダキには前見頃の「前ダキ(私の師匠は「前クリ」と呼んでいます)」と後見頃の「後ろダキ」があり、ここに表れるシワを補整できれいにすることを「ダキ取り」といいます。

では、なぜこのようなシワが入ってしまうのでしょうか?

 

シワが出る要因 ① 「なで肩で肩が落ちている」

 

仕立ての世界では、なで肩で肩が落ちている状態を「肩下がり」と呼んでいます。

着用している服の形(パターン)よりも実際の肩が下がっていると、肩に引っかかる位置まで自然と服が下に落ちますよね。そうすると、縫い目のあるアームホールの袖付け部分(ダキ)に余った分だけシワが入るのです。

 

肩下がりでも生まれながらのなで肩ではなく、日々の生活の中で体が湾曲し左右どちらかに傾斜しているというケースもあります。普段からバッグを片方で持っていたり、姿勢が偏ってどちらかに骨盤が下がっていたりと原因はさまざまです。

スポーツをする方(特に野球・テニス・ゴルフ・バドミントンのプレイヤー)は利き腕の肩が下がっていることが多いようです。これは、同じフォームで同じ方向にスイングを繰り返すために、どうしても利き腕側に姿勢が偏ってしまうのです。

 

ちなみに、この肩下がりはいま説明した理由からダキのシワ以外にもうひとつ分かりやすいシワが出ます。せっかくなので合わせて見ていきましょう。

 

肩下がりの斜めジワ <ピン打ち&パターン>

こちらの写真はわかりやすくするためシワを極端に表現しているのですが、なで肩の方は首(ネックポイント)から肩までの傾斜が強めなのでパターンが体に合わない(服が大きい)と以下のように斜めのシワが入ります。

ピンは、斜めのシワに対して横向きに打ちます。

パターン図は、色を変えているのがフィッティングのピン打ちによって補正が入った線です。こうして違いを見ていくと、頭の中で立体と平面の切り替えができるようになっていきます。わたくしも、まだまだ修業中です・・・。

 

 

 

 

 

 

シワが出る要因 ② 「背幅または胸幅が大きい」

 

服の背幅、胸幅の寸法が大きいと背・胸のそれぞれ左右の端に生地が余ってしまい、ダボつきが出てしまいます。

ただし、ダキに全くゆとりがない方がいいのかというとそうではなく、適度にゆとりを持たせて腕の可動域を広げてやらないとキュークツな服になってしまうので要注意です。

スポーツをする方の場合は、当然ながら背筋や胸筋の筋肉量もフォームによって大きく左右差が出てきます。左右の筋肉の凹凸のによる見た目の違いは補正で整えることができますが、なるべく利き腕の反対側も筋肉がつくようにトレーニングすると、よりしっかりと体幹がつくだけでなくきれいにスーツが着られることは言うまでもありません。

 

 

BEFORE&AFTER 「ダキ取り」のピン打ち補正はどうなる?

 

服飾を専門に勉強された方ならまだしも、文字で説明されても服の動きなんてまったくピンと来ない!とモヤモヤする方もいらっしゃると思いますので、Before&Afterの写真を見てみましょう。

 

前ダキ(前クリ)の余りジワ <ピン打ち&パターン(後ろダキのパターン図と合同)>

この写真はちょっとわかりにくいかもしれませんが、通常ダキが余ると胸の端に縦方向(または斜め方向)に余りができます。

シワの方向に沿って余っている部分にピンを打ちます。(玉の白いピンです)

 

 

 

後ろダキの余りジワ <ピン打ち&パターン>

後ろダキは、背中の端に同じく縦方向(または斜め方向)に余りが出ます。

こちらも前ダキと同様に、シワの方向に沿って余っている部分にピンを打ちます。

 

 

 

 

体型は十人十色、フィッターに求められるのは複合的な応用力

 

体型を見るときに難しいのは、偏りやシワの原因を「骨格・筋肉(肉付き)」とあわせて複合的に判断していくことです。

熟練の職人ならば、長年の経験から「これぐらいの肩下がりなら、ここをこれぐらい取れば動きやすくきれいになるだろう。そうするとパターンはここをカットして……あ、でも胸筋が多いからここも……」というのが感覚的にわかります。2次元と3次元のイメージ図が脳内スイッチひとつで切り替わります。その域に達するまでは数十年の経験が必要でしょう。

(基本的に、彼らにとって”ピン打ち”はお客様に納得いただくためのパフォーマンスなのです)

 

国内のあるシャツ職人さんは、男女の骨格・筋肉はもちろんのこと、”動脈・静脈の血管や臓器の位置”まで独学したのだとおっしゃっていました。それまで、服作りのために体の深奥の構造まで考えたことは一度もなかったので、非常に関心したのを覚えています。

その方にフィッティングしていただいた経験がありますが、「シャツの採寸・仮縫いにここまでやるの?!」というほど全神経を集中して細かく丁寧に臨んでいらっしゃいました。ご本人いわく、レディースに関しては女性の体のつくりが男性と全く違うためにまだまだフィッティングが難しいようです。本当に奥が深い世界ですね。

 

さて、『Sartoressa ~仕立て屋見習いのクアデルノ~』の第1弾はいかがでしたでしょうか?

次回は、「ツキ取り」についてご説明します。どうぞお楽しみに!